年金は繰下げるべき?
年金受取り方法を決める前に必ず
押さえるべきポイントを確認
「繰下げのメリット・デメリットあなたは分かっていますか?」

年金の繰下げ受給とは、受取り時期を遅らせることで年金額を増やすことができる仕組みのことをいいます。
年金額が増える一方で、繰下げ期間中は年金を受取れない為、「自分の場合繰下げるべきなのか?」と迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、繰下げ受給のメリット・デメリットについてお話していこうと思います。
繰下げ受給のメリット
繰下げ受給の一番のメリットは、言うまでもなく将来受取れる年金額が増えることです。【図表1】の通り66歳以降、最大75歳まで繰下げることが可能であり、繰下げた月数×0.7%の割合で年金額が増えていきます。公的年金は国が保障する年金であり、繰下げ期間に応じた割合で増えた年金額を一生涯受取れることから、長生きへの安心感という大きなメリットを得られます。
また、あまり知られていませんが、繰下げ期間中には、本来受取ることができた年金をさかのぼって受取ることもできます。受取ることができるのは、請求時から5年前までさかのぼって、その間に繰下げしなければ受取れたはずの年金です。この場合、請求後に受取る年金額に繰下げによる増額は反映されませんが、例えば繰下げ期間中に、自宅の修繕や入院等で多額の出費が必要になった際に対応する手段として知っておいて損はないでしょう。
繰下げ受給のデメリット
逆にデメリットとしては、早く亡くなってしまった場合に「65歳から受取った方が受取り総額は多かった」という可能性があります。また、加給年金(対象となる配偶者・子がいる場合に受取れる厚生年金の家族手当)等の加算給付を受取ることができないことが挙げられます。さらに、在職老齢年金に支給停止額がある場合は、その支給停止額については繰下げによる増額の対象にはならないこと等も知っておくとよいでしょう。
図表1|年金繰下げのメリット・デメリット
-
メリット
- 繰下げ1か月ごとに年金額が0.7%増額される
(繰下げの上限年齢は75歳※で最大増額率は84.0%) - 増額された年金を一生涯受取ることができる
(長生きするほど受取り総額が多くなる)
- 繰下げ1か月ごとに年金額が0.7%増額される
-
デメリット
- 繰下げ期間中は年金を受取れない
(老齢厚生年金の加給年金や老齢基礎年金の振替加算も受取れない) - 早く亡くなってしまうと本来よりも受取り総額が少なくなる
- 繰下げによる増額は遺族年金には反映されない
- 在職老齢年金による支給停止額は繰下げの増額対象にならない
- 繰下げ期間中は年金を受取れない
※ 昭和27年4月2日以降生まれの方が対象です。それ以前にお生まれの方の上限年齢は70歳です(最大増額率は42.0%)
(出典:老齢年金ガイド令和4年度版(日本年金機構)をもとにオンアド作成)
年金の繰下げは別々に選択できる
年金の繰下げを老齢基礎年金と老齢厚生年金とで別々に選択できることはご存じですか?
例えば、老齢基礎年金は70歳まで繰下げして、老齢厚生年金は65歳から受取るといったような受取り方が可能ということです。この受取り方だと、繰下げ受給による増額効果も得ながら、加給年金による加算も得ることができます。
【図表2】は、3歳年下の妻がいる方を例として、①老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに65歳から受取り②老齢基礎年金は70歳から、老齢厚生年金は65歳から受取り③老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに70歳から受取り、の3つのケースの年金受取り総額を比較したものです(※1)。なお、厚生労働省によると65歳男性の平均余命は約20年ですので、85歳時点までの比較としています(※2)。
この例では、受取りが80歳までだとケース①、81歳から83歳の期間はケース②、84歳以降はケース③の受取り総額が多くなる試算となります。
図表2
前提:3歳年下の妻がいる厚生年金受給者(収入は年金収入のみ)
※1 金額は仮定
※2 税金・社会保険料負担は加味せずに比較
ケース①:老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに65歳から受取り
- 老齢基礎年金
- 老齢厚生年金
- 加給年金
- 年間受取り額
65歳〜67歳
- 777,800円
- 1,080,000円
- 388,900円
- 2,246,700円
68歳〜69歳
- 777,800円
- 1,080,000円
- ー
- 1,857,800円
70歳以降
- 777,800円
- 1,080,000円
- ー
- 1,857,800円
ケース②:老齢基礎年金は70歳から、老齢厚生年金は65歳から受取り
- 老齢基礎年金
- 老齢厚生年金
- 加給年金
- 年間受取り額
65歳〜67歳
- ー
- 1,080,000円
- 388,900円
- 1,468,900円
68歳〜69歳
- ー
- 1,080,000円
- ー
- 1,080,000円
70歳以降
- 1,104,476円
- 1,080,000円
- ー
- 2,184,476円
ケース③:老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに70歳から受取り
- 老齢基礎年金
- 老齢厚生年金
- 加給年金
- 年間受取り額
65歳〜67歳
- ー
- ー
- ー
- 0円
68歳〜69歳
- ー
- ー
- ー
- 0円
70歳以降
- 1,104,476円
- 1,533,600円
- ー
- 2,638,076円
年金受取り総額の比較
- ケース ①
- ケース ②
- ケース ③
80歳時点
- 3,089万円
- 3,059万円
- 2,901万円
81歳時点
- 3,274万円
- 3,278万円
- 3,165万円
82歳時点
- 3,460万円
- 3,496万円
- 3,429万円
83歳時点
- 3,646万円
- 3,714万円
- 3,693万円
84歳時点
- 3,832万円
- 3,933万円
- 3,957万円
85歳時点
- 4,018万円
- 4,151万円
- 4,220万円
- ケース ①
- ケース ②
- ケース ③
80歳時点
- 3,089万円
- 3,059万円
- 2,901万円
81歳時点
- 3,274万円
- 3,278万円
- 3,165万円
82歳時点
- 3,460万円
- 3,496万円
- 3,429万円
- ケース ①
- ケース ②
- ケース ③
83歳時点
- 3,646万円
- 3,714万円
- 3,693万円
84歳時点
- 3,832万円
- 3,933万円
- 3,957万円
85歳時点
- 4,018万円
- 4,151万円
- 4,220万円
まとめ
受取り総額で考えると、繰下げ受給すべきかどうかは基本的には何歳まで年金を受取るか(何歳まで生きるか)で決まるといえます。しかしながら、人の生死はコントロールできるものではありませんから、判断に迷うことになります。
ご自身にとって最善の選択をするためには、まず現状の資産を把握し、今後のセカンドライフをどのように送りたいのかをイメージすることが必要です。そのうえで、毎年どの程度の収支であれば資産を枯渇させることなくご自身の目指す暮らし方を実現できるのか、ライフプランシミュレーション等で確認すれば、自ずと必要な選択肢が分かってくるはずです。収支に余裕があるなら、長生きリスクに備えて、繰下げで将来の年金受取り額を増やすことは有効な選択肢の一つとなるでしょう。
65歳を迎えられるタイミングで「繰下げすべきなのかどうなのか」とご自身の中で答えが決まっておらず目先の生活に不安がない方は、前述した通り一旦繰下げをして、今後のライフプランやお気持ちの変化にあわせて年金の受取り方を決めてみてはいかがでしょうか。
ご留意事項
本稿は2022年8月時点の情報に基づいて執筆しております。
また、本稿の一切の権利はオンアドに属しております。事前にオンアドの承諾を得ることなく、複製・転載・転送等の行為は固くお断りいたします。